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映画レポート

「この国に生まれたるの不幸」~100年前、精神障害者の為に奔走した1人の男がいた~

100年前、あなたが精神障害者であったとしよう。

あなたはきっと思うはずだ。

自身が障害を抱えることになった不幸の他に、

この国に生まれたことさえも不幸の1つであると……。

(注)現在では不適切な表現を含みますが、上の言葉は後に記述する呉秀三の当時の言葉を一部借用したものであり、それ以上の意図はございません。

今回は横浜市健康福祉総合センターでオレンジと一緒に映画を鑑賞して来ました。

この記事では「夜明け前~呉秀三と無名の精神障害者の100年~」についての感想を二人で語り合っていきたいと思います。

映画の紹介

1918年に発行された『精神病者私宅監置ノ実況及ビ其統計的視察 : 附・民間療方ノ実況等』から100年が経ち、その記念として「きょうされん」と「日本精神衛生会」が共同で制作したドキュメンタリーです。

歴史的史実に基づき、関係各所へのインタビューを交え、当時の精神障害者の状況の改善に奔走した呉秀三という人物の軌跡を辿っています。

呉秀三

皆さんは呉秀三(くれしゅうぞう)という人物を知っていますか。

『精神病者私宅監置ノ実況及ビ其統計的視察 : 附・民間療方ノ実況等』を発表したことで有名な人物です。

当時の精神障害者への対応としては、1900年に制定された精神病者監護法に基づく私宅監置が行われていました。

呉秀三は当時の精神障害者たちが置かれた状況をなんとか改善しようと奔走した人物なのです。

略歴

1865年 江戸の青山に生まれる。

1890年 帝国大学医科大学を卒業し、精神医学を専攻。

1897年~1901年 オーストラリアとドイツへ留学。

1902年 精神病者慈善救治会を設立。

1918年 『精神病者私宅監置ノ実況及ビ其統計的視察 : 附・民間療方ノ実況等』を発行。

私宅監置

私宅監置とは、市区町村長に申請を行い、地方長官の認可を受けた場合、自宅または敷地内の建物などで精神障害者を監禁・保護する制度である。

精神障害者は座敷牢に入れられた上で鎖に繋がれていたり、手作りの小屋に入れられ、風が吹き抜けるような所に入れられたりなど、劣悪な環境下に置かれていた。

この私宅監置は1950年に精神衛生法が公布され、精神病者監護法・精神病院法が廃止となるまで続いた。

二重の不幸

我が国何十何万の精神病者はこの病を受けたるの不幸のほかに、この国に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし

呉 秀三

この言葉は日本の精神障害者の置かれた状況を調査した後、呉秀三から出た言葉です。

呉は留学先で見てきた当時最新の精神障害者への対応と日本での状況を比べ、「二重の不幸」として表現したのです。

呉は、現在の都立松沢病院の院長に就任するとすぐに精神障害者を拘束していた手枷・足枷の使用を禁止しました。しかし、国からは呉の取り組みを咎めるような通知書が届きます。

当時の日本で精神障害者の身体拘束について肯定的であったという事実は否定できません。

映画感想

ここからは、映画を見に行った太郎とオレンジが感想を言い合っていきます!

最初の場面について

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太郎

今回の映画は割と衝撃的な事が多かったよね。
映画が始まって早々、檻の中から顔を出してこちらを見つめている精神障害者が写ってる写真が出てきたから驚いたよ。

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オレンジ

そうだね。荷台に縛り付けられている精神障害者の写真を見た時は衝撃を受けたよ。こういうことが当たり前だったことは問題だよね。

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太郎

私宅監置は呉秀三が問題提起してからしばらく経った1950年にやっと無くなったんだよね。

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オレンジ

うん。確かに私宅監置はなくなったけど、現代でも精神障害者が受けている処遇が対して変わってない気がする。こんなに長期間入院させられているのって日本ぐらいだよね。

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太郎

授業で習ったけど、世界的に見ても精神障害者を病院に長期入院させてるのは日本やその他限られた国だけらしいんだよ。

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オレンジ

それについてはよく議論に上がって問題視されてるよね……。

呉秀三の留学について

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太郎

映画では呉秀三のルーツについても触れられていたね。

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オレンジ

留学に行ったりして、当時の海外の最先端の治療について学んでいて、その行動力が凄いと思ったよ。

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太郎

呉秀三が留学をしていた頃には既に海外では拘束具を外していたのを知ったから、日本に帰ってすぐに自分が就いた病院で拘束具の使用をやめたんだったよね。これも行動力が凄いと言えるよね。

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オレンジ

留学に行って、海外と当時の日本を比較した時に日本の私宅監置制度の問題点について気が付いて、変革していくきっかけになったんだね。

受け継がれる呉秀三の意志

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オレンジ

呉秀三は病院の院長になってすぐに拘束器具の使用をやめさせたんだったよね。

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太郎

そうだね。現在の東京都立松沢病院の第五代院長だったね。映画では拘束具の使用率を翌年には0%までに下げていて、当時の精神科病院では考えられないことだったと思うよ。

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オレンジ

昔は0%にまで下げることができていたけど、近年はどうなんだろう。

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太郎

日本精神衛生会の広報誌「心と社会」のNo.174によると、「2012年、松沢病院全体で20%弱に上った拘束率は、2017年には3%台まで低下した」(2018, 齋藤正彦, 巻頭言)という記述があるし、現代においても呉秀三の意志がしっかりと引き継がれているみたいだね。

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オレンジ

それなら良かった!全国の精神科病院でも身体拘束率が下がると良いね……。

最後に

レポートを書いた感想

最後まで我々の拙い映画レポートを読んでいただきありがとうございました。

このレポートを執筆中に気を使ったのはネタバレがどの程度まで許されるのかという点です。感想を語る上で、ネタバレは仕方がない部分もありますが、その調整が難しかったように感じます。

映画の内容を踏まえて

今回は呉秀三という人物についてのドキュメンタリーを鑑賞し、その感想を書いてみたわけですが、皆さんの中でどれだけの人がこの人物についてご存じだったでしょうか。

社会福祉を学ばれている方々は授業で紹介され、何度もその名を聞いたと思いますが、普段福祉に関わりが無い人でその名を聞くことは少ないのではないでしょうか。

我々wel-beeの目指すところとして、福祉を「他人事」ではなく「自分事」にするというものがあります。

日本における精神科病院での身体拘束は未だ諸外国に比べて多い状況であることに加え、長期入院等の問題についても指摘されており、早急に解決すべき課題です。

しかし、これは果たして、精神科病院で働く人、精神障害者と関わりのある人のみが解決すべき課題であるのでしょうか。

長期入院の背景の1つには、地域での受け入れ体制が整っていないということがあります。地域での受け入れ体制の構築には、地域で暮らす一人ひとりの協力が不可欠です。

今このレポートを読んでいる皆さんも関わりがある問題であると言えるのです。

このウェブページに辿り着いた皆さんが福祉に関して一歩踏み出すきっかけになれば幸いです。

読んでいただき、ありがとうございました。

「夜明け前」を観たい!

この映画は上映場所、上映日時が非常に限られています。

きょうされんのホームページにお知らせが載っているので、観てみたい方はその日を逃さないようにチェックしましょう!

関係者の皆様へ

今回の映画鑑賞は大変勉強になりました。このような機会を提供してくださったきょうされんの皆様に感謝申し上げます。
また、映画終了後、お忙しい中長々とお話に付き合ってくださった、きょうされん横浜支部の担当者の皆様にも同様に感謝申し上げます。
内容に関して誤りなどがあった場合はすぐに訂正いたしますので、ご連絡ください。

参考

・齋藤正彦(2018)「『精神障害』や『精神障害者』という概念を問い直す:記録映画『夜明け前:呉秀三と無名の精神障害者の100年』を通して」『社会臨床雑誌』27(1), 47-53.

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太郎

普段福祉に関わりがない人が注目しにくい話題を選び、私の記事で少しでも福祉について知ってもらう事を目指しています。

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