「お子さんに障害があると分かった時点でおすすめされる本のラインナップの中に、きょうだい児の視点として、この絵本が定番になったらいいなと思います。」
きょうだい児当事者であり、自身と同じ境遇にある人たちへの発信活動を続けてきたヒトデさんはそう語る。2024年12月6日(金)、ヒトデさんの著作であり、きょうだい児に向けた絵本『ぼくだってとくべつ』(逆旅出版)が発売。より多くのきょうだい児にメッセージをを届けるため、この絵本は全国の書店で販売されるとともに、読者からの支援で公立図書館や教育施設に寄贈された。今回は、絵本の著者であるヒトデさんと担当編集者の中馬さりのさんにインタビュー。絵本の制作過程を振り返りながら、作品に込めた熱い想いを伺った。
※「きょうだい児」:障害や病気を抱えるきょうだいをもつこどものこと。(きょうだい児についてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事をどうぞ。)
同じ境遇の人に分かってもらえた体験が心の支え
ーーきょうだい児の絵本の出版に至った背景を教えてください。
ヒトデさん:僕自身きょうだい児なんですけど、同じくきょうだい児の奥さんと話すまでは、「きょうだい児」って言葉自体も正直知らなくて。 自分自身の境遇は仕方ないことだし、人に言ってもしょうがないし、あまり話したことがなかったんですよね。なんとなく自分の中で解決しないと思っていたんですが、同じ境遇の人に話して分かってもらえたという体験が心の支えになりました。もっときょうだい児の人に伝わるといいなと思ったのが大きなきっかけです。
主人公はあくまできょうだい児
ーーきょうだい児というテーマを絵本に落とし込むにあたり、表現上工夫したことはありますか?
ヒトデさん:絵本の中で、きょうだいが主人公の物語っていうところをすごく意識していて。例えば、障害とか重い病名みたいなものは絵本の中では出てこないですね。あくまできょうだい児本人の心の動きに重きを置いて作ったのが印象に残ってますね 。
中馬さん:障害の名前を出して、「かわいそうですよ。 助けなきゃいけない人ですよ。」みたいなストーリーには絶対したくないっていうのが 、そもそも編集とヒトデさんの中で合致してたっていうのはすごく大きいですよね。きょうだい児をテーマに、わかりやすく状況を説明しようとするほど、どうしてもフォーカスしてるのが障害を持っている方だったりとか 、親になりがちなのがすごく悲しく思えちゃったところもあって。あくまで主人公は絶対この子(きょうだい児)だからっていうのだけブレないように。
温かい雰囲気にするため、キャラクターを動物に
ーー表現する上で大変だったことはありますか?
中馬さん:キャラクターを人間にするのか、動物にするのか悩みましたよね。
ヒトデさん:悩みましたね。最初は主人公を人間にする話があったんだけど、イラストレーターさん(ももろさん)の空気感を活かすには、動物の方が絶対いいし。人間だと重々しくなりすぎちゃうのが、かわいらしい柄によって中和される。読んでいて気分がどんどん沈んでいくのは嫌なので、もうちょっと温かくなるように動物というモチーフになったのが、今振り返ってみると良かったなと思いますね。
「絶対この方にお願いしたい!」
ーーイラストレーターのももろさんの可愛らしいイラストが非常に魅力的ですよね!結構早い段階で、ももろさんにお願いすることが決まったのでしょうか?
ヒトデさん:そうですね。中馬さんからいろんな候補者を出してもらったんですけど、結構早い段階から、「この方じゃないと!」みたいな想いがありました。ファーストインプレッションです!
中馬さん:実は、逆旅出版でコラボしたい著者さんやイラストレーターさんのリストがありまして……。ももろさんはその中でも第一希望の方だったので、何度もヒトデさんに提案しちゃいました(笑)。
クラウドファンディングという手段を選んだわけ
ーー絵本の出版を行うにあたり、クラウドファンディングという手段を選んだ理由を教えてください。
ヒトデさん:クラウドファンディングって多くの人がかかわるじゃないですか。もちろん、この絵本を手に取ってほしいという気持ちもありますが、「きょうだい児」という言葉や概念自体を広めていくという意味でクラウドファンディングという手段を選びました。
中馬さん:絵本の重大なテーマである「君はひとりじゃない」というメッセージを視覚的に表現したくて。クラウドファンディングに賛同してくれたきょうだい児当事者の方のお名前を掲載させていただくことで、読者の方に「本当にひとりじゃないんだ!」と感じてもらえると思ったんです。また、 クラウドファンディングという形をとることで、「絵本を必要としていないけれど、きょうだい児の支援活動を応援したい」という方にリーチできるのではないかという想いもありましたね。
クラウドファンディングの大きな反響
ーークラウドファンディングの反響はいかがでしたか?
ヒトデさん:反響は予想よりすごく大きかったという印象です。今回のクラウドファンディングをきっかけに、「きょうだい児」という言葉を初めて知った方、当事者だと気づいた方がいました。「クラウドファンディングの文章を見ただけでも共感ができてすごく嬉しく思いました」という声をいただき、やって良かったなと思いました。
装丁へのこだわり
ーー今回はクラウドファンディングの目標を24時間で達成され、3rdGOALまで設定されたそうですね!2ndGOALの内容の中に「触る楽しみを増やせるように用紙のクオリティ向上」というものがありましたが、具体的にはどのような工夫をされましたか?
中馬さん:まず絵本のサイズをA4横版という大きめの形にしました。今回選んだA4横版は、子どもが1人で読む場合も扱いやすく、読み聞かせる場合でも大人の膝の上に子どもを座らせて読みやすいため、予算の都合さえつけばこのサイズにしたいと思っていました。
また、珍しいこだわりだと、カバーの厚盛UV加工は読者の方々に楽しんでもらえるのではないかと思います。こちらは一般的な仕様の上に樹脂を厚盛りして、独特の質感と光沢をもたせる特殊加工。デザイナーのアイディアで入れた、触って楽しめる工夫です。樹脂なので身体に優しいのも選んだポイントです!
しかし、この加工でお花や蝶を描くなどかなり繊細なデザインにしてしまったので、書籍の形に組む「製本」作業のため印刷した用紙を切る「断裁」という作業に機械が使えず、職人1枚1枚手作業するしかなくなってしまい、時間とコストがかかってしまいました。
でも、逆旅出版は読書バリアフリー法・アクセシブルな書籍及び電子書籍化の流れにも賛同しているため、この絵本は企画当初から「電子書籍化もして、そちらにはそちらの良さを、紙には紙の良さをだしたい」と考えていたんです。今回の厚盛UV加工は電子書籍では反映できません。だからこそ、紙を選んで手に取ってくださる方へ向けた特別なプレゼントとも言えるかと思いますし、こだわって採用できてよかったです。帯の下にも施しているのでぜひ外して見ていただきたいです!
絵本をより多くの図書館へ
ーー今回は全国の図書館や教育施設に絵本を寄贈される予定とお伺いしましたが、出版社から直接の寄贈はよく行われるものなのでしょうか?
中馬さん:出版社から公共団体への寄贈は、実は頻繁に行われているんですよ。著者にゆかりがある地の図書館や教育施設に寄贈する出版社さんもいます。今回はその範囲を広げる形で、全国の施設へ寄贈をさせていただきました。
☆寄贈先の施設一覧はこちら
読者の皆さんに向けて
ーー最後に、読者の方へのメッセージをお願いします!
ヒトデさん:絵本の力できょうだい児が抱える問題を全て解決することはできないとは思っていて……。それでも、「同じ境遇の人がいる」ってことは、当事者にとって大きな心の支えになると思っています。この本を通じて、同じ境遇の人が世の中にたくさんいて、同じように悩んでいることが伝わるといいなと思いますね。もしも、きょうだい児に当てはまるような方が周りにいたとしたら、この絵本やきょうだい児に関する発信をしている人がいることを伝えてもらえるとすごく嬉しいです。
中馬さん:絵本って世代を超えて読まれる可能性があるコンテンツだと思うんですよ。子どものときはストーリーやイラストをそのままで楽しめますし、大人になってからはストーリーの裏まで読み込めるというか。全国の書店においてもらったりとか、絵本の電子化をしたりとか、いろんなことに挑戦したいと思っているので、引き続き応援していただけたら嬉しいです!
☆絵本の注文に関する詳しい情報はこちら(逆旅出版のホームページに移動します。)
ヒトデ:株式会社HF 代表取締役。複数のウェブサイトやコワーキングスペース、オンラインサロンを運営している。今回紹介した絵本『ぼくだってとくべつ』では文章を担当。
《過去の著作例》『嫌なことから全部抜け出せる 凡人くんの人生革命』KADOKAWA、『「ゆる副業」のはじめかた アフィリエイトブログ スキマ時間で自分の「好き」をお金に変える!』翔泳社、『1万回生きたネコが教えてくれた幸せなFIRE』徳間書店
中馬さりの:人生を旅する皆様の「休憩場所」や「分岐点」になる、宿のような本を作る出版社、合同会社逆旅出版の代表。2022年に逆旅出版を創業。
逆旅出版公式サイト: https://www.gekiryo-pub.com/
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